ベトナム企業 買収・合併

はじめに

ベトナムにおけるM&A

堅調な経済成長と支援的な政策枠組みにより、ベトナムは世界中の投資家にとって魅力的な投資先であり続けています。ベトナムにおけるM&A(合併・買収)取引は着実な成長を遂げており、特に2007年にベトナムが世界貿易機関(WTO)に正式加盟して以降、その傾向が顕著となっています。近年のベトナム政府は、数多くの規制や法制度を段階的に整備しており、ベトナムにおけるM&Aの発展が促進されています。

ベトナム企業の株式や持分は、原則として自由に譲渡することができます。日本人や日本企業が、ベトナムで子会社を設立する場合には、まず「投資登録証明書」(IRC)を入手する必要がありますが、既存するベトナム企業の株式や持分を取得する場合には、その必要はありません。このため、近年の日本企業のベトナム進出方法としては、現地法人を新たに設立するよりも、既存するベトナム企業を買収・合併する方法がよく用いられています。

M&Aに関連する法制度

  •  2019年11月26日に国会により可決された証券法(法令番号:54/2019/QH14、以下「2019年証券法」)
  • 2024年11月29日に国会により可決され、2019年証券法を含む複数の法令を改正した改正証券法(法令番号:56/2024/QH155、以下「2024年改正証券法」)
  • 2020年6月17日に国会により可決された企業法(法令番号:59/2020/QH14、以下「企業法」)
  • 同日に可決された投資法(法令番号:61/2020/QH14、以下「投資法」)
  • 2020年12月31日付で政府より公布された政令第155/2020/ND-CP号(2019年証券法の一部規定の実施細則、以下「政令155号」)
  • 2020年11月16日付財務省通達第96/2020/TT-BTC号(証券市場における情報開示に関する指針)、および2024年9月18日付通達第68/2024/TT-BTC号による改正
  • 2020年12月31日付財務省通達第116/2020/TT-BTC号(政令155号に基づく公開会社のコーポレートガバナンスに関する指針)
  • 同日付通達第118/2020/TT-BTC号(証券の募集・発行、公開買付、自社株買い、公開会社の登録及び取消に関する指針)
  • 2021年6月30日付通達第51/2021/TT-BTC号(ベトナム証券市場における外国投資活動に関与する機関および個人の義務に関する指針)
  • 民法および競争法等、M&A全般に適用される一般法規
  • ベトナムが締結国である各種国際条約および協定(例:自由貿易協定、WTO等)
  • 業種特有の規制(例:銀行・金融、教育、保険業等)
  • 国有企業に関する特別規定
  • その他関連分野に関する規制(例:土地法、外国為替管理、労働法、税法等)

株式を取得する目的で行われる公開買付は、以下の原則を遵守しなければなりません:

  • 買付条件は、対象会社の全株主に対して平等に適用されること
  • 買付に応じる当事者に対しては、意思決定に必要な完全な情報が提供されること
  • 対象会社株主の自主的意思決定権が尊重されること
  • 投資者は、証券会社を買付代理人として選任すること

ベトナムにおいて公開買付は、財務省(Ministry of Finance)およびその下部機関である国家証券委員会(State Securities Commission of Vietnam、「SSC」)の監督の下に実施されます。

財務省は、行政罰等を含む多様な法的手段を有しており、公開買付に関する規則の遵守状況を監督し、違反に対して是正措置を講ずる権限を有します。また、公開買付に係る具体的な指針および実施規則を制定する権限も保有しています。

さらに、買収対象会社の業種・事業内容に応じては、他の監督官庁(例:中央銀行、教育省、労働省など)の関与・承認が必要となる場合があります。

ベトナムの株式の種類

ベトナムの株式会社(Joint Stock Company)は、複数の種類の株式を発行することができ、株主はその保有する株式の種類に応じて異なる権利および利益を享受することが認められています。

  • 普通株式(Common Shares)
    標準的な議決権、配当権、残余財産分配請求権を有する株式
  • 議決権優先株式(Voting Preferred Shares)
    普通株式よりも多くの議決権を付与される株式であり、会社設立日から3年以内の創業株主、または政府により認可された組織に対してのみ発行が認められています
  • 配当優先株式(Dividend Preferred Shares)
    普通株主に支払われる配当よりも高率、またはあらかじめ定められた年率で配当が支払われる株式
  • 償還優先株式(Redeemable Preferred Shares)
    株主の請求により、または株式証券および会社定款に定められた条件に従い、会社が出資資本を返還する義務を負う株式
  • その他の優先株式
    会社定款および証券関連法令に基づき規定されるその他の種類の優先株式

TOBの必要性

TAKEOVER BID

上場会社以外でも、公開買付け(TOB)義務

ベトナムでは、上場会社ではない株式会社の株式を取得する場合でも、公開買付け(TOB)を行わなければならない場合があります。原則として、株主が100名以上且つ資本金が100億ドン(約6000万円)以上の株式会社の株式を市場外で取得する場合には、TOBが必要になります。ベトナム法において、上記のような会社は「公開会社」と称されます。

公開買付け義務のある買収

下記のいずれかの事由に該当する場合、買収者は公開買付け(TOB)の方法により株式を取得することが義務付けられています:

  • 買収者およびその関連者が、公開会社における議決権付株式を新たに取得し、直接的または間接的に25%以上を合計で保有することを意図する場合
  • すでに公開会社の議決権付株式を25%以上保有している買収者およびその関連者が、追加で株式を取得し、その結果としてその保有比率が35%、45%、55%、65%、75%のいずれかの閾値に達する場合、またはこれらを超える場合
  • 公開買付けが公開会社の全議決権株式を対象とするものでない場合であって、買収者およびその関連者が公開買付けの結果として当該会社の議決権株式の80%以上を合計で保有することとなる場合、その後30日間にわたり、残余株主からの株式取得の機会を引き続き提供しなければならず、その買付価格および支払条件は、直前の公開買付けと同様である必要があります
公開買付け義務のない買収

下記のいずれかの事由に該当する場合、買収者は公開買付け(TOB)を経ずに株式を取得することが許容されています:

  • 対象会社の株主総会の決議により承認された新株発行計画に基づき、新たに発行された株式を取得することにより、その保有比率が上記のいずれかの持分割合のしきい値に達する(またはそれを超える)場合
  • 株主総会の承認を得て、特定の譲渡人から特定の譲受人への議決権株式の譲渡により、上記の保有割合に達する場合(株主総会決議には、譲渡人および譲受人の情報が明記されていることが必要)
  • 企業集団(経済グループ、コーポレーション、親会社-子会社関係にある会社等)内での株式譲渡であり、企業法に従いクロスオーナーシップが成立する場合
  • 国有資本または国有企業が他の企業に投資した資本の譲渡、または公開競売等により証券を取得する場合
  • 会社の分割、分社、合併または統合の結果として株式を取得する場合
  • 贈与または相続により株式を取得する場合
  • 裁判所の確定判決、決定、または仲裁判断に基づく株式の譲渡である場合

TOB実施前の注意点

Before a Public Takeover Bid

ベトナムにおける公開買付けに関する法制度上、買付けに先立ちデュー・ディリジェンスを実施すべきか否か、またはその実施方法について、明確な規定は設けられておりません。そのため、監督当局の観点からは、公開買付けの実施前にデュー・ディリジェンスが実施されたか否かが問題とされることは基本的にありません。

もっとも、実務上は、買収に際して発生し得る障害の回避やリスクの軽減を目的として、投資家による事前のデュー・ディリジェンスまたは買収前審査の実施は、ベトナムでも企業実務の慣行として広く受け入れられており、推奨されています。

なお、ベトナム政府は、デュー・ディリジェンスの実施にかかわらず、すべての関連者がインサイダー取引に関するベトナム法による規制を、厳格に遵守することを当然の前提として要求しています。

公開買付けの公告に先立ち、ベトナム法には複数の規制が適用されるため、投資予定者または対象会社が公開買付けに至る手続を開始する場合には、事前に慎重な計画立案が求められます。

外国人投資家がベトナムにおいて法人を設立する、または既存法人を買収する方法でベトナムに投資を行う場合には、あらゆる外資規制を厳守する必要があります。これらの規制は、ベトナムが締結している国際通商協定および国内法規により定められています。特に、特定の事業分野においては、外国人投資家による買収を妨げる、またはその目的達成に支障をきたす可能性のある規制に注意する必要があります。

たとえば、ベトナムのWTO加盟に基づく規制により、外国資本を有する企業は、ベトナム国内において医薬品の流通業務を行うことが禁止されています。よって、たとえ1%であっても外国資本を有する法人は「外国投資企業」と見なされ、第三者の医薬品を流通させることは認められません。外国人投資家はこれらのような潜在的課題に十分留意すべきです。

また、政令第155号において、公開会社に対する外国人持株比率の上限について以下のとおり規定されています:

  • ベトナムが国際条約に基づき事業分野ごとに外国人所有権の制限を定めている場合、公開会社は当該条約に定められた上限に従うものとされます。
  • 国内法により外国人所有権の上限が定められている場合、公開会社は当該法定上限を遵守しなければなりません。
  • 公開会社が外国投資市場参入制限の対象事業を営んでいる場合、その制限が適用されます。市場参入リストに当該分野の上限が明記されていない場合、当該公開会社における外国人持株比率の上限は、その会社の定款資本の50%とされます。
  • 上記いずれにも該当しない場合、外国人持株比率には上限は設けられていません。

なお、公開会社が複数の事業分野を営み、各分野に異なる外国人持株上限が存在する場合、最も低い上限が全体の持株上限として適用されます。また、公開会社は、法定上限より低い比率を自主的に定款で定めることも可能であり、その場合は株主総会(GMS)の承認を必要とします。

既に外国人持株比率が上限を超過している公開会社は、それ以上の持株比率の上昇を防止する措置を講じなければなりません。このような公開会社における外国人株主は、当該比率が許容範囲内に戻るまでは、自己の株式を売却する権利のみを有し(※ただし、配当株式の受領または既存株主全員に比例的に発行される新株の取得を除く)、追加取得は認められません。

さらに、市場参入制限とは別に、特定の業種に属する公開会社への外国投資には、事前に当局の承認が必要です。例えば、銀行業に関する外国投資にはベトナム国家銀行の事前承認が、保険業に関する投資には財務省の承認がそれぞれ必要とされます。

以上を踏まえ、公開買付けの計画段階においては、外国投資家はすべての市場参入条件を的確に把握し、対象会社において取得可能な最大株式数などの関連事項を慎重に検討する必要があります。もし提案された買収が法令に定められた条件を満たさない場合、当該買収もしくは公開買付けは、所轄当局により拒否される可能性があります。

 

ベトナム法において「共同保有者(acting in concert)」という用語の定義は明示されておりませんが、「関連者(affiliated persons)」という概念が規定されており、その対象には以下が含まれます:

  • 企業およびその内部関係者(例:役員、従業員)
  • 公共投資ファンドまたは公開投資会社およびその内部関係者
  • 企業と、その議決権付株式または出資持分の10%超を保有する法人・個人
  • 直接的または間接的に他の法人・個人により支配される者、または当該他の者と共に同一の支配下にある者
  • 個人とその親族(実父母、養父母、配偶者、子、義理の両親・兄弟姉妹など)
  • 投資信託運用会社およびその運用対象となる投資信託・投資会社
  • 双方が代理関係にある契約関係者
  • その他、企業法において「関連者」として規定された法人または個人

公開買付けに関する法令上、買付者およびその関連者による対象会社に対する持株比率の合計は、公開買付けの義務が生じるか否かを判断するための重要な要素となります。

公開買付けの完了後、投資家およびその関連者による対象会社の議決権株式の保有比率が5%以上に達する場合、当該者らは「主要株主」として認定され、一定の情報開示義務を負うことになります。

ベトナムの公開会社に関連するインサイダー取引の規制は、2019年証券法および政令第155/2020/ND-CP(以下「政令155号」)に定められています。

具体的には、以下の行為が禁止されています:

  • インサイダー情報を利用して、自己または第三者のために証券を売買する行為
  • インサイダー情報を開示または提供する行為、もしくはその情報に基づいて他者に証券の売買を助言する行為

政令155号に基づき、対象会社、その内部関係者および関連者、公開買付けの代理人、並びに公開買付けに関する情報を有するその他の者は、以下の行為が禁止されています:

  • 公開買付け開始前に、インサイダー情報を利用して自己のために証券を売買すること
  • 当該インサイダー情報を他者に開示または漏洩し、または他者に対し証券の売買をそそのかす、もしくは誘引すること

上記の禁止行為を行った者には、行政制裁が科される可能性があり、これには1億VND〜1.5億VND(約600万〜900万円)の罰金および違法利益の没収が含まれます。

さらに、2016年7月1日施行の2015年刑法(法令第100/2015/QH13号、以下「2015年刑法」)および2018年1月1日施行の2015年刑法改正法(法令第12/2017/QH14号)に基づき、当該違反行為を行った者は以下の刑事責任を問われる可能性があります:

  •  最大5億VND(約3千万円)の罰金、または
  • 最長7年の懲役刑

加えて、以下の付加刑が科される場合もあります:

  • 最大2億VND(約1千2百万円)の罰金、または
  • 一定の職務への就任禁止、または特定の業務・職業の遂行禁止(1〜5年間)

なお、2015年刑法においては、一定の犯罪行為について、法人・個人のいずれも刑事責任の対象となり得ます。これには、以下の行為が含まれます:

  • インサイダー情報を利用した証券の売買
  • インサイダー情報を他者に開示・提供し、またはその情報に基づいて売買を助言する行為

法人がこれらの犯罪行為を行った場合、最大1,000億VND(約6千万円)の罰金が科される可能性があり、加えて以下の制裁を受ける場合があります:

  • 一定期間(1年〜3年)にわたる事業活動の停止、または特定分野における業務の禁止
  • 資本調達活動の禁止

株式の保有状況に関する開示義務は、公開買付けの実施前後の両方に適用されます。

公開買付けを実施しようとする投資予定者は、まず国家証券委員会(State Securities Commission of Vietnam、以下「SSC」)に対し買付けの登録を行わなければなりません。SSCに提出すべき書類の一つに「公開買付け公告」があり、これは財務省が定める様式に従って作成する必要があります。この様式に基づき、投資予定者は、公開買付け実施前における自己の株式保有状況を開示しなければなりません。

公開買付け完了後は、投資者はその結果に関する報告書を、公開買付けの完了日から5営業日以内にSSCへ提出し、あわせてその内容を一般に公告する義務があります。当該報告書には、買付け実施前および実施後における投資者の保有株式数および対象会社に対する持株比率を明記する必要があります。

さらに、公開買付けの結果、投資者が当該会社の議決権株式の5%以上を直接または間接的に保有する「主要株主」となった場合には、投資者は主要株主となった日から起算して5営業日以内に、対象会社、SSCおよび当該会社の株式が上場されている証券取引所に対して報告を行う義務があります。

投資者は、公開買付けを一般に公告する前に、ベトナムの所轄官庁に対して当該買付けの登録を行う必要があります。具体的には、投資者は国家証券委員会(State Securities Commission of Vietnam、以下「SSC」)および対象会社に対して、登録申請書類一式(以下「登録書類」)を提出しなければなりません。

登録書類には、以下の文書が含まれます:

  1. 「公開買付け登録申請書」:公開買付けの概要、取得予定株式数、買付価格等の情報を記載する文書
  2. 「公開買付け公告書」:対象会社に関する情報、投資者と対象会社との関係、投資者による現時点での保有株式数、取得予定株式数、買付価格、実施スケジュール等を記載する文書

対象会社の取締役会は、投資者が提出した登録書類の内容を精査する義務を負います。取締役会は、申請書類の受領日から10営業日以内に、公開買付けに関する意見をSSCおよび株主に対して書面で開示しなければなりません。取締役会において意見の相違がある場合には、その異論についても開示書面に明記しなければなりません。

SSCは、投資者から提出された登録書類について、審査期間として15営業日を有しており、修正または補足が必要と判断した場合には、書面にてその旨を投資者に通知しなければなりません。

投資者は、SSCより申請書類が完備している旨の書面通知を受領した日から7営業日以内に、少なくとも3日間にわたり、以下の媒体において公開買付けの公告を行わなければなりません:

  • 投資者自身のウェブサイト(存在する場合)
  • 公開買付け代理人のウェブサイト
  • 対象会社が上場している場合には、当該証券取引所のウェブサイト

公開買付けの公告後であっても、以下の事由が生じた場合には、投資者は公開買付けの撤回を申請することが可能です:

  • 登録された売却希望株式数が、SSCに提出した公開買付け登録申請書に記載された最低取得予定数に達しない場合
  • 対象会社が優先株式の普通株式への転換等により議決権付株式数を増加させた場合
  • 対象会社が議決権付株式数を減少させた場合
  • 対象会社が新株、転換社債、新株予約権付社債、ストックオプション等を発行した場合
  • 対象会社が、直近の財務諸表に基づく総資産価額の35%以上に相当する資産を売却した場合

なお、投資者が公開買付けの撤回を申請する場合には、当該撤回事由を事前に登録書類に明記しておく必要があります。

投資者が撤回を行うには、上記いずれかの事由が発生した日から3営業日以内にSSCへ書面による通知をしなければなりません。SSCは通知の受領日から3営業日以内に書面で回答する義務があります。投資者がSSCから撤回の承認を受領した場合、投資者はその承認後24時間以内に、以下の媒体にて公開買付け撤回の公告を行わなければなりません:

  • 投資者のウェブサイト(存在する場合)
  • 公開買付け代理人のウェブサイト
  • 対象会社が上場している証券取引所のウェブサイト(該当する場合)

他方で、買付け手続が予定どおり進行し、公開買付けが完了した場合、投資者は、完了日から起算して5営業日以内に、公開買付けの結果に関する報告書をSSCに提出し、併せてその内容を一般に公告しなければなりません。

さらに、公開買付けの公平性および透明性を担保するために、投資者は、SSCへの登録書類提出時から公開買付けの完了時までの期間中、株主に対しては常に同一の情報を、同一のタイミングで開示する義務を負います。

ベトナム法は、公開買付けに関連して対象会社が負う情報開示義務に関する規定を設けています。

対象会社は、買付け登録申請書類を受領した日から3営業日以内に、当該買付け申請を受領した旨を自社のウェブサイトおよび当該会社の株式が上場されている証券取引所のウェブサイトにおいて公告しなければなりません。

また、対象会社の取締役会は、申請書類の受領日から10日以内にその内容を精査し、当該公開買付けに関する意見を、書面にて国家証券委員会(SSC)および株主に提出する義務があります。

政令第155/2020/ND-CP(以下「政令155号」)に基づき、対象会社、その内部関係者および関連者、公開買付けの代理人、ならびに公開買付けに関する情報を有するその他の者は、以下の行為を行ってはなりません:

  • 当該インサイダー情報を利用して自己のために証券を売買すること
  • 公開買付けが正式に開始される前に、当該情報を第三者に開示し、または証券の売買をそそのかす若しくは誘導すること

公開買付け完了後に、対象会社において主要株主(議決権株式の5%以上を保有する者)の株式保有比率に変更が生じた場合、対象会社は、当該変更に関する通知を主要株主から受領した日から起算して3営業日以内に、その内容を自社ウェブサイト上で公告しなければなりません。

買付価格の決定

ベトナム法では、買付価格の決定に関して投資者が遵守すべき原則を定めています

金銭による支払い:

  • 公開買付けの申請日前60取引日における基準価格の平均値を下回ってはならず、また、その期間中に実施された他の買付けにおける最高買付価格をも下回ってはなりません。
  • 公開買付けの実施期間中、投資者は買付価格を引き下げてはなりません。
  • 買付価格を引き上げる場合、登録受付締切日の少なくとも7日前までに価格の引き上げを公告する必要があり、かつ、その価格はすべての登録売却者に適用されなければなりません。この場合、投資者は増額分に対して支払能力を有している必要があります。

株式による支払い:

  • 株式交換比率は、関連法令に基づき投資者の株主総会の承認を得なければなりません。

M&Aの戦略

デュー・ディリジェンスの過程において、投資者が公開会社の株価に重大な影響を及ぼす可能性のある機密情報を入手した場合には、以下の行為が禁止されます:

  • 当該情報を利用して、自己または第三者のために株式を売買する行為
  • 当該情報を、故意または過失により第三者に開示・提供し、またはその情報に基づいて株式の売買を助言する行為

ベトナム法には、敵対的買収に関する特別な規定は設けられていません。ただし、対象会社の協力を得て対象会社の情報へのアクセスを確保することは、買収を円滑に進める上で極めて有用と考えられます。

ベトナムにおける公開M&A取引においては、以下のようなデ手法が一般的に利用されています:

  • 独占権
  • ブレイク・フィー
  • ロックアップ条項

敵対的買収については、ベトナム法が整備されていないこともあり、ベトナムにおいては依然として一般的ではありません。ベトナムでは、下記のような防衛策は存在しますが、限定的にしか用いられていません:

  • ポイズンピル(株主権利プラン)
  • 取締役会の任期の段階的構成(Staggered Board)
  • 資産の取得・処分(一定の場合に株主総会の承認が必要)
  • 議決権優先株式(発行には制限あり)
SQUEEZE OUT OF MINORITY SHAREHOLDERS

買収完了後の少数株主に対するスクイーズアウト(強制売却)

ベトナム法においては、株主が一定の株式保有比率に達した場合に、他の少数株主の同意を得ることなく、その全株式を取得することを認める「スクイーズアウト(強制売却)」の制度は存在していません。

現行の公開買付けに関するベトナムの法規制においては、投資者が対象会社の株式の80%以上を保有するに至った場合、その投資者は残余株主が保有する株式を、30日以内に引き続き取得する義務があります。ただし、残余株主には、この期間内に株式を売却する義務は課されておらず、売却は任意です。

もっとも、実務上は、80%以上を保有する株主が、会社の再編や株主の権利・義務に関する変更について決議を可決させることにより、間接的に残余株主に対して株式の売却を「促す」ことが可能です。このような決議に反対する残余株主は、ベトナムの企業法に基づき、対象会社に対して株式の買取りを請求することができます。

これに代わる手段として、新株発行、合併手続、または会社による株式の買戻し(償還)等の、株主の持株比率を希釈化することが可能な制度が、個別または併用により適用されることがあります。

とはいえ、これらの手法を単独なたは併用して実施する場合には、慎重な意思決定プロセスが求められます。対象会社は、ベトナム法および対象会社の定款に従い、少数株主の正当な利益を十分に考慮した上で手続きを進めなければなりません。

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