ベトナム知的財産
はじめに
ベトナムにおける知的財産権
ベトナムは、世界貿易機関(WTO)の要件(TRIPS協定)に基づき、知的財産権に関する複数の国際的条約に加盟しています。具体的には、パリ条約、ベルヌ条約、ローマ条約および特許協力条約(PCT)に加盟していますが、集積回路の回路配置に関する知的財産条約(IPIC条約)には加盟していません。さらに、ベトナムは商標に関するマドリッド協定の加盟国でもあります。
ベトナムの国内法においても、ベトナムは自国の知的財産権保護制度を構築・強化する措置を講じています。特に、2006年7月1日に施行された「知的財産法第50号」は、ベトナムにおける知的財産権制度の強化に向けた最も包括的な制度です。しかし、ベトナム国内では、依然として海賊版や知的財産権侵害が蔓延しており、知的財産権の保護には十分な注意を払う必要があります。
INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS
知的財産の定義
知的財産とは、ブランドやロゴ、製品デザイン、経営手法など、ビジネスを構成するアイデアの集合体です。知的資産は、物的資産と同様に利益を生み出す可能性があり、他者に盗用または不正使用されるリスクもあります。したがって、知的財産権(IP)を完全に保護することは、IPの価値を最大限に活用するために不可欠です。
ベトナムで保護される主な知的財産の種類
- 商標、商号、および地理的表示
- 発明および意匠(特許)
- 著作権および関連権利
- 営業秘密
- 半導体集積回路の配置設計
- 植物品種
商標
TRADEMARK
ベトナムにおける商標とは、商品またはサービスに付される識別標識であり、それらが特定の事業者に由来することを示し、他社の商品・サービスと区別することを目的としています。商標には、文字、単語、図形、画像(三次元を含む)、またはこれらの組み合わせ、音(図形的に表現されるもの)などが含まれ、単色または複数色で表されます。
商標の登録は必須ではありませんが、独占的に使用し、他者による使用を防ぐためには、ベトナム知的財産庁(IP Office)への登録が必要です。未登録の商標でも周知であれば、他者の使用に対して異議申立てが可能ですが、登録済み商標の方が優先され法的保護が強固になります。
- 登録の条件は以下のとおりです:
他者の登録済み商標と同一または類似でないこと - 識別力があること
- 知的財産法に反しないこと(例:国旗、地名、有名人名を含むものは禁止)
登録には通常2年を要し、登録後は10年間有効で、以降10年ごとに更新可能です。商標権者は、登録の有効期限が切れる6か月前から更新を申請することができます。商標が所有者(またはライセンシー)によって5年以上正当な理由なく使用されていない場合、第三者が取消請求を行うことが可能です。
商標はライセンス契約により他者に使用許諾することが可能です。書面契約が必要ですが、記録がなくても第三者に対して有効とされます。周知商標は、登録されていなくても広く認識されていれば、類似商標の登録取消を請求できます。
- 刑事手続:最大5億VND(約300万円)の罰金、または最長2年間の非拘禁的矯正
- 刑事手続:再犯や組織的犯罪の場合には、最大10億VND(約600万円)の罰金、または懲役3年間の懲役
- 行政手続:罰金、偽造品や関連物品の没収・廃棄、営業停止
- 民事訴訟:差止、損害賠償、謝罪広告、違反物の廃棄、侵害品やその製造・流通に使われた物品・設備の破棄など
- 未登録商標の所有者も不正使用に対する民事救済を請求可能
特許
PATENT
ベトナムの知的財産法では、①発明、②実用新案および③意匠が、特許として保護されます。
発明は、「自然法則の応用によって問題を解決するための製品または工程の形態の技術的解決手段」と定義されます。実用新案は、発明に類似していますが、進歩性(発明的ステップ)を含みません。意匠は、「製品または複合製品の部品の外観であって、形状・線・色またはそれらの組み合わせで表現され、製品の使用時に視認できるもの」と定義されます。
・発明および実用新案:自然法則に基づいた技術的解決手段
・意匠:製品の外観(形状・線・色等)
- 新規性
- 進歩性(実用新案は不要)
- 産業上の利用可能性
登録は必須で、ベトナム知的財産庁に出願することで専用権が与えられます。
発明の登録手続きには通常、出願日から3~4年かかります。意匠の登録手続きには、出願日から最大18か月かかる場合があります。
有効期間は下記の通りです:
- 発明:出願日から20年
- 実用新案:出願日から10年
- 意匠:5年、有効期間は最大15年(5年ごとに更新)
書面による契約が必要で、第三者に対して効力を持たせるには登録が必要です。
- 刑事手続は不可
- 行政・民事訴訟は可
- 無断製造、流通、広告、輸入等に対する差止または損害賠償
著作権
COPYRIGHT
ベトナムの知的財産法において、著作権とは、著作物の創作者または所有者が有する権利であり、文学、美術、科学などの創作物に適用されます。著作権は創作時に自動的に発生します。
- 文学的及び科学的な著作物
- 講演、教科書、その他の書面または文字によって表現された作品
- スピーチ、報道作品、音楽、演劇、映画、美術、写真、建築、地図、設計図、図面、地図、スケッチ、民芸作品、コンピュータプログラム、データ集など
ニュース速報、法律文書、行政文書、司法文書、原則・概念・方法・データなど
- 著作人格権:命名権、氏名表示権、公開権、同一性保持権(無期限)
- 著作財産権:複製、翻案、公衆送信、頒布、貸与、上映、演奏等
著作権は、作品の創作と同時に自動的に発生するため、保護を受けるために登録を行う必要はありません。また、ベトナムはベルヌ条約加盟国であるため、他の加盟国の国民の作品や加盟国で最初に発表された作品は、ベトナムでも自動的に保護されます。
しかし、著作権を登録することは可能で、そうすることによって権利の証明が容易になります。その為、ベトナムの多くの著作物は登録がなされています。
ほとんどの種類の作品について、著作権の保護期間は著作者の生存期間中および死後50年間です。映画、写真、応用美術、および匿名の作品は、最初の公表から75年間保護されます。原則として、作品の同一性と著作者の名誉を守る著作者人格権は永久に保護されます。
非営利の研究・教育、個人使用、批評、報道等に限り、一定の範囲で著作物の使用が認められる「フェアユース」規定が存在します。フェアユースの例外に該当するためには、その行為が著作物の通常の利用と矛盾せず、かつ著作権者の正当な権利を不当に侵害しないことが必要です。
- 刑事手続: 侵害が、(1) 商業規模で、(2) 違法な利益が3億ドン(約180万円)に達する、または (3) 著作権者に5億ドン(約300万円)に達する損害を与えた場合、侵害者に対して最大5億ドン(約300万円)の罰金または最長2年間の拘禁を伴わない再教育が課される。侵害が組織的な犯罪または再犯の場合には、罰則は最大10億ドン(約600万円)または最長3年間の懲役
- 行政手続:罰金、侵害物の没収・破棄
- 民事手続:差止、損害賠償、公的謝罪、公的訂正、弁護士費用の請求等
営業秘密
TRADE SECRETS
ベトナムの知的財産法において、営業秘密とは、「財政的・知的投資により得られた、未公表かつ事業上有用な情報」と定義されています。
営業秘密として保護されるには、一般に公知でなく、保有者に経済的利益または優位性を与える情報であり、その秘密性を保持するために合理的な努力が払われていなければなりません。
ベトナムの知的財産法では、合法的に取得され機密として保持されている営業秘密は自動的に保護されるため、登録は必要ありません。
- 一般に知られていないこと
- 経済的利益をもたらすこと
- 秘密保持のための合理的努力がなされていること
秘密が維持される限り、保護は無期限です。
・秘密保持措置を回避して情報を取得する行為
・無断で開示・使用する行為
・契約違反、欺罔、買収などにより取得する行為
・販売・流通に係る審査資料の不正取得
- 合法的に独自取得された情報
- 公益目的の開示
- 正当に流通した製品のリバースエンジニアリング等
営業秘密の侵害に対しては、民事訴訟または行政手続が可能です。ライセンス契約違反の場合には契約責任追及も可能です。なお、刑事罰は適用されません。
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